第4話)日本と西洋のカットの違い(前編)

前編


その昔の日本では、男性は丁髷(ちょんまげ)女性は日本髪を結っていた。それが江戸幕府が幕を閉じ、明治維新が起こってからは西洋の文化が文明開化という言葉と共に一気に入り込んできた。

 

髪型も同じである。「散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする」という言葉が残っているくらい、長い髪を国民が短髪にしたという、理美容の歴史でも大きな変化であった。


そして、第二次世界大戦後に、理容と美容がハッキリと二つに分けれ、それから20年も経たない1960年頃、今では誰もが名前を知っているヴィダルサスーンが、Wash and Wearというコンセプトで「洗った後にブローをしないで形になるスタイル」という、カットの正確さが非常に重要になるカット理論を世にリリースしました。


日本でも、このサスーン・カットという言葉は誰でも知っているし、美容師になるにはこの理論を必ず知らなくてはならないほど、現代のカットには必要不可欠な理論、原点の原点になっていると言っても過言ではありません。


60年代、70年代は、この西洋から輸入されたカット理論をこぞって勉強し、髪質に関係なく西洋のものをそのまま日本人は真似をして髪型を楽しんでいた。この時代までは、日本と西洋のカットの違いなど無かったのではないかと思う。


今でも学校レベルで習うカットの基本は世界中同じである。ワンレンはワンレン、レイヤーはレイヤー、グラデーションはグラデーションなどなど…今も昔も変わらず同じである。お客さんに髪型を説明する時も、国籍問わず誰に説明をしても英語が通じれば全員が理解してくれる。


そ れでは、どうして海外の美容師さんは上手に日本人の髪を切れないのか?確かに日本国内で日本人でも上手に切れない人はいるだろうが、平均値を取ってみれば 間違いなく日本国内の美容室へ行けば、トンでも無い髪にはならない。しかし海外ではビックリするような髪型になるのだ。

 

この海外生活の8年の間に、緊急を要する「すごい髪にされたというお客さんに何度も出会った。

前髪を3cmくらいに切られ、しかも定規で測ったような真っ直ぐにパツンだ。オン・ザ・まゆ毛なんて可愛いものじゃない(汗; それらを修正するのだから、僕の技術力もアップする(笑)

 

パ ツンと切られる分には修正は可能だけど、困るのは切りすぎと梳きすぎ。中国人系、韓国人系の美容師さんにカットをしてもらい失敗したと言うお客さんは、こ の切りすぎと梳きすぎだ。目を瞑って何も考えずに梳きバサミをざくざく切り、梳き切ったようになり、カットラインを壊してしまい形にならないというのが多 い。

 

あ とは、ペラペラに梳き切った長い髪の上に、マッシュルーム・ボブが乗っかったような、変てこなタコのような髪型にされてしまった人。右側だけ異常に短く梳 き切ってしまい、これじゃマズイと思ったのか左側だけは普通に重たく長いままという、量も長さも左右バラバラの酷い髪型。

 

日 本人に切ってもらったというロングヘアーの素敵な女性は、頭のハチの部分を約2cmの幅でグルッと一回りくり抜かれて「髪が多いから量を減らしました」と の事。鉢巻が当たる部分の毛が無いなんて、そんなカット技法は聞いたことがない。その数ヵ月後になりポニーテールにしたら、熊さんの耳のように、くり抜い た毛が飛び出してくる。結局は日本で技術を取得しない中途半端なまま海外に来てしまった例だろう。


海 外にいる日本人美容師だからと言って安心はできない、日本語が話せる(日本人だから当たり前)というだけで、技術は西洋のものだったりする。日本での厳し い下積みを経験してないで、海外へポンと出て現地の専門学校を卒業しただけの美容師だと、やはり経験値も非常に少ないし練習時間も日本の何十分の一しかト レーニングをしていないし教わった技術は西洋人への理論。


あ とは、海外で10年以上も美容師をやっているという日本人美容師も、日本の流行のスタイルを10年間勉強していないから技術が古いと言う美容師もいる。 せっかく日本で技術を取得したのに、アップデートを怠けると、直ぐに古臭い美容師になってしまう。海外で生活しながら日本の情報を得るには、いつもアンテ ナを立て、定期的に日本へ帰ってこの目で見てくるという努力をし続けないといけない。


さて、話を元に戻そう。日本人と西洋人のカットが違う理由がいくつかある。


西洋人  

髪が細く柔らかい、量が少ない → 多く見せたい。

コシが無い、クセ毛が強い → 真っ直ぐの艶やかな髪に憧れ 

アジア人 

髪が太く硬い → 軽く(少なく)見せたい。

真っ直ぐでストレート → 柔らかい動きのある髪に憧れ

 

次回は、もう少し踏み込んで上記のことに触れていきたい。

後編へ続く。。。

第5話)日本と西洋のカットの違い(後編)

後編


この西洋から始まった現代のヘアースタイルは、西洋人の「多く見せたい、艶やかなハリのある髪に憧れる」というのが原点にある。それが日本国内でも60年代、70年代にはワンレングスといえば、本当に真っ直ぐ綺麗に切りそろえるのがワンレンだった。


しかし、その西洋人標準の好みのスタイルでは、日本人の「動きのある軽やかな髪」にはならない。そこで日本では、削(そ)ぐ、梳(す)く という技術が発達してきた。その削ぎの法則は80年代後半から進化を磨げ、今ではそれ無しでは日本のスタイルは作れないと断言できる。


同 じワンレングスでも、日本のワンレンは、世界標準のワンレンに切ったあとに、繊細に計算された削ぎ加減で、毛先が微妙に柔らかい動きを出す。この削ぐ計算 が削ぎの方程式と経験と勘なのである、この計算されたカットをしてもらったお客さんは、手入れがしやすく、長持ちもする。しかし、15分と言う短時間では カットはできない。ただ切り落とすだけのカットなら別だが、削ぎにはたくさんの計算が必要である。

 

僕がカットする前にチェックする項目があります。

1、毛の流れ
2、渦巻きの位置

3、頭の歪み具合

4、分け目
5、襟足
6、生え際
7、毛質
8、傷み具合
9、デザイン

これらを考慮して、その部位部位で
1、根元から何パーセント削ぐか
2、中間から何パーセント削ぐか
3、毛先は何パーセント削ぐか
4、スライドカットの必要な場所はどこなのか

を見極めてカットしていきます。

 

残念ながら、日本国内にいる美容師さんの全員が同じように考えているわけではなく、勉強しているほんの一握りの数少ない美容師さんだけは「どうやったらお客さんが毎日のスタイリングを楽にできるか、どうやったら長持ちするか」を考えています。

 

こんな繊細な「削ぎの技術」を考えなくてもよい西洋のカットですから、日本人のような硬くて太くて多い髪のお客さんが西洋人のサロンにいくと、思ったようにならないのです。

 

僕にも失敗の経験があるのですが、初めてブロンズのオージーのお姉さんの髪をカットした時のことである。西洋人は髪は細いけれど、本数はアジア人の1.2倍~1.5倍あるので、とても多く感じられます。

 

そこで、僕は多いから根元から梳けばいい・・・・と思って、根元から中間にかけて削ぎをいれました。もちろん分け目は深い所から削ぐと短い毛が立ってしまうので、毛先しか梳きませんが・・・・。

 

そ の結果、シャンプーをしたあとに現れたオージーの女の子は、猫がシャンプーしたあとのようなペタンとした情けない髪の量・・・。乾かしたらボリュームは出 るので、乾かそうとしたらブローができない。そう、根元と中間から削がれた髪の毛は、重さがないのでクセ毛に負けてクシュクシュとブラシの目に引っかかっ てこない。おまけに毛先が細々となっているので、しっかりした毛先に力がない。もう敗北でした。

 

ここでわかりました。西洋の教科書では、毛先3分の1までしか梳いてはいけないとある理由が。この失敗が僕をオーストラリアの専門学校へ導いてくれたのであった。

 

日本には、日本人の髪の性質と好み、それが歴史となって今の日本のカット理論ができあがっている事に気づいた。これを海外の美容室に行っても、やはり何かが違って当たり前である。

 

一つ気がついたのは、西洋で勉強した人が日本のカット理論を取得するのは半端じゃなく大変だろうけど、その逆、日本で修行をして海外に出れば直ぐに適応できると思う。